真昼の月
その瞬間あたしは気がついた。
月じゃない。
あたしはトモが恋しい。
トモはいつも多くを語らないけど、
あたしが欲しいものを差し出してくれる。
言葉を選んで真っ白いハンカチに包んで大事そうにあたえてくれる感じがする。
気まぐれなところがあっていつもそうとは限らないけど、
肝心なときにこころを差し出してくれている。

トモの沈黙はためらいがちな愛情表現だったんだと気がついたとき、
あたしはまた泣けた。
トモに逢いたい。逢いたい。逢いたい・・・・・・瞬間世界が揺れた。

「ここに居るじゃないか」
後ろを振り返った。でも誰も居なかった。

「居るよ。からだは居ないけど。心で聖羅に話しかけているよ」

耳に、というより思考に直接声が届いた。
背中から抱きしめられて時のような安堵感が身体の奥底に染み渡ってくる。

「僕はいるよ。聖羅の心の中に」あたしは思わず自分を抱きしめた。
自分を抱きしめたというより、
見えないトモを抱きしめたというほうが正しかった。
不思議な暖かさがそこに広がった。
そこだけ銀の光に包まれて柔らかく輝いているみたいだった。

「月の光は心を元気にする」
静寂な心の部屋の中でトモの声が響いた。
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