真昼の月
「トモ、あたし」
あたしはうちに帰って二階の自分の部屋の子機からトモに電話している。
想像していたとおり、うちはあまり居心地が良くなかった。
父はあたしとどうやって接したらいいかまるで掴めてない感じで、
食事の時間、真理子さんが台所に立つたびに気まずい沈黙が流れる。
あたしはなるべく居間にはいないようにして、自分の部屋で寝ているようにしていた。
パソコンもテレビも、CDのコンポもみんなアパートに持っていってしまったので、退屈なこと極まりない。

「あたしね、今実家にいるよ」

「そうか」

「トモは調子、どう?」

「良くも悪くもない。それよりいつまでそこに居られるの?」

「明日の夕方には病院にもどる」

「明日か・・・・・・」

「うん」

「じゃあ、あした逢えないか?」

「外には出られると思うけど、トモ、東京に居るんでしょ」

「車でそっちに行く」

「ここってF県のK市だよ」

「高速で飛ばせば3時間でつくだろう」

「最寄のインターは?」

「K南インターチェンジだけど、今あたし車つかえないから」

「そうか・・・・・・」

「どうしよう?」

「じゃあ聖羅はうちに居て。そっちについたら電話するよ。携帯は持ってる?」

「アパートに置きっぱなしだよ」

「とって来られない?」

「着替え取りに行くって言って携帯もって来る」

「オーケイ。じゃあ明日パーキングにつくたびに電話するよ」

「わかった」

「僕ね、どうしても聖羅に逢いたいんだ。聖羅に逢えば何かが見えてくるような気がするんだ」

「どうして?」

「それはわからない」と言ってトモは電話を切った。

あたしは真理子さんに車を出してもらって部屋に帰り、着替えと携帯と充電のプラグを持ってきた。
部屋のコンセントにプラグを差込み、携帯を繋いだ。
それだけすると、あたしは眠剤を飲んだ。
ご飯は?と聞いてくる真理子さんに「ごめんなさい、欲しくない」と断って、ベッドに潜り込んだ。
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