真昼の月
あたしたちは裸でベッドの中に居る。お互いの体温を確かめ合っている。
胸と胸をぴったりくっつけて、頬と頬を重ね合わせて。
あたしたちはただそうしている。
石のように固まったまま動こうとしない。
トモがあたしの右手首をつかんだ。むき出しになったあたしの傷を見て
そっと唇を這わせる。

「辛かったね」トモはそういってあたしの髪をなでる。
大きな掌で、器用そうな指であたしの髪の毛を優しげにすいていく。
こういう風に髪をなでられたのは何年ぶりだろう。
誰もあたしに触れてはくれなかった。
求めていたぬくもりがこんなに近くにあることにあたしは喜びと驚きを隠せないでいる。

あたしはトモにされるがままになっている。トモはただあたしの髪をなでている。その指
先が背中に下がる。

あたしはいつも肩がこっていた。撫でられるとそのぬくもりで血流が良くなってくる。
温められた血は眠りを誘う。

「このまま、眠ってもいい?」あたしは甘えていった。

「もちろん眠っていいよ。もしよければ眠剤あるから少し飲む?僕は聖羅とこうしていられるだけで幸せだ。今まで誰にも愛されてきた感じがしなかった。だけど今は違う。聖羅がいる。聖羅のぬくもりを感じることができる。それだけで僕は幸せだ」

あたしたちはためらいがちにキスをした。トモのキスはぎこちなかったけれど、唇が柔らかくてとても気持ちが良かった。
それからトモはあたしに眠剤を薦めた。
それがどんな薬かわからなかったけれど、
トモの言うままに3錠飲んだ。それがイソミタールであることも知らずに。
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