大切な人だから




髪を乾かし終わって
着替えていると
益が妙に近付いてくる

「なに?着替えにくい」

軽く益から避ける

「ねえ…」

何かを言いながら益は
あたしを後ろから抱きしめた


「益?痛いよ?」

その力は、いつもより
何倍も強かった

「明花…、明花…」

益はあたしの名前を小さな声で
何度も何度も呼ぶ
あたしは向きを変えて
益から離れた

「益!なにがあったの?」
いつもと違う益に
あたしは優しく問いかけた
なのに、益は何も言わない

「ねえ?益?何か言ってよ
黙ってても、明花分かんない」


あたしは涙をためていた
益の気持ちがわからなくて
嫌で嫌でたまらなかったのだ


「明花、俺さ
もしかしたら引っ越すかも」


あたしは言葉が出なかった


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