はつこい・いちご【短編】
私が知ってるあなたのこと。


それはあなたの顔だけ。

…姿もかな。



……たった、それだけ。

びっくりするくらい少ない、あなたの情報。


それでも私は、またあなたに会えるかもしれないって、

そんな希望だけで、

彼に恋してる。



「あ~、何かモヤモヤする!」

私は思い切り叫んだ。


教室にいたクラスメートたちが、

びっくりしてこっちを見る。


……何だかちょっとだけ恥ずかしい。


でもそれよりも、もっと恥ずかしくて悲惨なことに気付く……。



「ちょっと、穂純!

あんたのパン……!!」


「えっ」


私は視線を自分の手元に移す。



すると、見事にグシャッとつぶれたパンが、

手の中におさまっているではないか。



「やっちまったね…」


レイが何だか懐かしいツッコミを、

切ないほど冷たく決めてきた。



「うん、あ…はは…」


泣きたい。

今日の一番楽しみだったメロンパンだったのに……。


一気に戦争後の残骸(ざんがい)のようになったパン。



お昼を食べ終えてから、

装飾品をチマチマと作っていると、

ホームルーム発表の班のリーダーが、


「もう今日はここらでシメね~。

何か雨、降ってくるらしいから」

と言ったので、2時をまわる少し前に、

私たちは帰る用意を始めた。
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