はつこい・いちご【短編】
二人とも、これだからダメなんだよ、と

言いたげに、肩をすくめる。


「女が傘持ってないとか、ダメじゃん。

夏は急に雨降ったり、天気変わりやすいんだから気をつけな」


レイが私の肩をポン、とたたく。


うーん、レイって、何か大人の女って感じだな。

いっつも、余裕があるんだよね。


下駄箱への廊下は長い。

端から端までゆっくりめに歩いてきたけども、

まだ雨の止む気配はない。


それどころか、だんだん、

音は激しくなっているような。


私は雨に打たれる窓を恨めしげに見つめていると、

ハッと息をのんだ。



「あーっ!」


うそ。

信じられない。


でも、


心のどこかで、

待っていた。


この瞬間を。



窓越しに見えたのは、

反対の方向から下駄箱へ歩いてくる、

あの人の姿だった。


私があげた声も、隣にいた二人には

驚かれたものの、

さすがに離れた場所にいる彼には、

届くはずもなかった。



「何々?」

「どうかした」


エリもレイも、驚き半分、好奇心半分、

といった感じで、目を丸くしている。



「あ…あの人がいるの」


高鳴る胸のせいで、うまくしゃべれない。

ドキドキして、言葉が滑らかに出てこない。


どうしたんだ私。


そういえば、あのころに似てるな、と思った。


あの人に、初めて会ったとき。


購買の前で、棒立ちになって、

ものすごい引力で、

彼を見るしかなかったあのときに…。


「ひょっとして、例の?」


レイが例の、とか言うとギャグみたい。

私はコクコクとうなずく。


「あー、アレがねえ…ふうん…。

ちょっとよく見えないけど、

アレってF組の石田じゃない?」


エリは確信があるみたいだ。

……ってか、知ってるの?
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