はつこい・いちご【短編】
「あれが穂純の一目ぼれた人ね…ふぅん」


レイがあごに手を当てながら、
うん、まあ、見れるじゃないの、
とか言っている。


美意識の高いレイにも、
一応認められた(?)ようだ。


うん、だってカッコいいもん、あの人。


エリは彼を知っているようだ。


「やっぱり石田くんだ!」

鼻息荒く言うエリに、


「ホントに?
エリはあの人のこと、知ってるの?」


と聞いてみた。

エリはこちらに向き直って、
大きな目をパチッと開いて、

「もっちろん。
アンタ、あの子結構有名だよ!?
1年で、野球部のライト守ってるとかいう」


どうやら、彼は有名らしい。


「しかもイケメンくんだし?」


レイが腕を組みながら少し笑って口を挟む。


「そうそう。
スポーツ万能ってことで、
顔も割とイイでしょ。
背も高いし。

だから、フツーに女子に人気あるし、
こないだも誰かが告ったって聞いたよ?」


エリは早口でまくしたてる。


……知らなかったなあ。



私が一目で気になった子が、
何か私の知らないところでは、
当たり前みたいにみんなから好かれてて、


しかも女の子から人気があるなんて……。




「…やめよっかな、好きなの」


「ハッ? 何言ってるのよ穂純」


私は顔を下に向ける。
そうすると、ただでさえうるさい雨の音が、
余計に頭に浸透してくるように聞こえた。


だって、私なんか望み薄っていうか、
脈ナシもナシ、
名前すら知られてないじゃん。

しかも、顔も覚えててもらえてない可能性が高い。


「そんなことでやめちゃうくらい、
軽い恋だったわけ…?」


エリの冷たい攻撃もスルーして、
私は少し早足になって下駄箱に着いた。


まだ石田くんはこちらに来ていない。
良かった。
このまま帰っちゃえ。


そうしたら、雨と一緒にこの想いも、
どこかへ流せてしまうんじゃないかと思って。


でも、あんまりにもどしゃ降りで、
外へ出るのをためらった私。


辛いことが待っているなんて、
知りもしないで。
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