はつこい・いちご【短編】
「「す、すごい雨だね…」」


ザアザア鳴り響く雨の降る模様を見ながら、
エリと私は同時に口にした。


「私はちょっと止みかけるまで、待とうかな。
レイはどうする?」


レイも一瞬ためらっていたが、


「ライブに制服で行くのはヤだから、帰るよ。
よく考えたら、時間もそんなにないしね」


決心したように、鋭い目で外を見て、


「それじゃ! また明日ね」


と私たちの


「バイバイ」


も聞けないほど早く、
チーターのように走り去って行った。



私がそんなレイの姿に度肝を抜かれている間に、
背後から物音がした。



靴が床に落ちる音。

スリッパが脱げて、滑る音。

私たち以外の、
誰かが来たようだ。


一瞬私はドキッとしたが、
けれども、


(そうじゃない、
石田くんじゃない……)

と自分に暗示をかけるように、
振り返らないでいた。



エリはその音の主を見たらしく、
私の脇腹をひじでつついて、


「あの子だよ~…いいの?
見てみなくて」

とヒソヒソ声でささやいてきた。


「別にいいよ。
だってもう、興味ないもん」


私の馬鹿。


「ふう…ん。
まあ、穂純がそうなら、
あたしもしつこくは言わないけど、さ」


イヤになる。

こんな嘘ついて、自分が苦しむだけなのに。


でも、気持ちに正直になってしまえば、
すごく傷ついてしまう予感がした。

この気持ちが一方的なものだから、
まだ楽なんじゃないかって。

思いが自分のものだけなら、
誰かにそれを踏み荒らされることもない。


もしも、相手に少しでも気づかれてしまったら、
その独特の良さみたいなものが、
崩されちゃうんじゃないかって。


そう思っていたところに。


「穂純、今こっち見たよ。
振り返るなら、今がチャンス!」


なんてエリの言葉に、
ついつい振り向いてしまう私は、
やっぱりどうしようもないくらい、

石田くんに恋しちゃってるんだろう。



興味ないなんて言ったことを、
一瞬でふり払えてしまうほどに。
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