はつこい・いちご【短編】
「やっぱり…」


石田くんは下を向きながら言うと、
自分の持っていた黒の傘を差しだして、

「…これ、使えよ」

私の方へスタスタと歩いてきて、
ちょっとぶっきらぼうにそう言ってみせた。



私はすごく嬉しかった。
彼の優しさが。
丁寧じゃないけど、素直な想いが。



全然話したこともない人に、一目ぼれをした。
その気持ちを疑ったこともあった。


…でも。

私、この人を好きだし、
好きになったことに、きっと後悔なんてしない。


「私は傘ありますし、
この子に渡しちゃったら、
あなた濡れちゃうじゃないですか」


エリが少し笑みを浮かべて言う。

まさか、コイツは……。


「一緒に入っていったらどうですか?
雨も強いし~」


やっぱり。

それって相合傘になっちゃうじゃない。


いくら何でも、知り合いでもない人間に、
そんなことを頼めるわけがないし、石田くんに断られたら、
当然だと思う反面、ショックも受けそう。


「エリ…それは…」



「…俺、家近いし…」


ほらぁ…
石田くんも、イヤそうにしてるよ。

というより、困ってる表情だ。


「別に…」


「湊(みなと)ーっ!」



石田くんが何かを言いかけると、


「やっぱり湊だぁ!
ねえね、私傘忘れてきちゃって~、
入れてってくれない?」


ふわりとしたショートカットが印象的な、
とっても可愛らしい女の子が、
石田くんに話しかけてきた。



「…あれ?
どうかしたの?」


彼女は私たちを、
知らない人をいぶかしげに見るような目つきで、
じっと軽く睨んできた。
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