はつこい・いちご【短編】
1 ひとめぼれ
9回表2アウト、ランナーは三塁にいる。
彼は思いっきりバットを振って一塁へ駆けた。



ズサっ……。


ヘッドスライディングで、砂ぼこりが舞う。


私は両手を握っていた。
誰かが鼻をすする音が聞こえる。

私の目からも、熱い涙がこみ上げていた。



お願い。
セーフになって。


そうしたら、同点に追いつける。
まだ、南陵高校の夏は、終わらない。


「アウトッ、スリーアウトー!!」

審判の手が上にあげられる。
瞬間、三塁側スタンドからは洪水のように歓声が溢れだした。



負けた。


負けたんだ…。



夏の甲子園、県大会の予選。

県立南陵高校は、準決勝まで残っていたただ一つの公立高校だった。



その最後の公立高校が、決勝の舞台に立つことなく、
ベスト4で姿を消すのだった……。
< 2 / 36 >

この作品をシェア

pagetop