はつこい・いちご【短編】
今、あの人は涙を流していない。


私はボロボロ、ぐちゃぐちゃになった顔で、彼を見る。


本当は、こんな顔であの人を見たくなんて、なかったけれど。

ラストバッターになって、ヘッドスライディングにチャレンジしたのに、
アウトになって試合は終了してしまった。


どれだけ彼は辛い思いをしているのだろうと思うと、
ついつい見ないわけにはいかなかった。


「石田くーん!」


その声に、ハッと我に返る。
いいな、石田くんの同クラの子かな。

みんなの前で彼の名前を呼べる幸せに、軽く嫉妬してしまう。


石田湊(いしだ・みなと)くんは、そちらの方をチラッと見て、
まるで何事もなかったように目線をそらす。


そして、その先にいた私と、目が合った。


また。
あの時も、こういう感じだった。
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