はつこい・いちご【短編】
見上げた先には、もちろんのことだけど、

その子の顔があった。


少し細めの眉。

大きくて切れ長の瞳。

細身の身体。



そのどれもが、私の心をわしづかみにするものだった。


「…………」


すみません、って一言、言うだけなのに。


私は硬直してしまい、
何も言えない。


ただ、目の前の人を見つめている。



彼も、そうだった。


私の目をじっととらえて、はなさない。
はなさない……。


どうしてそんなに見るの?


恥ずかしい。


人に見られることが、こんなにドキドキするなんて、

知らなかった。



どうしよう。


私、何だかこの人に、
ドキドキしている。


初めて会って、
話をしたこともない人に。


何だか、胸が熱くなる。


心の自由がきかなくて、ただ弾む音に身をまかせている。



「…ごめん」



小さな声でボソっとつぶやくと、

彼は小走りで私の前から去っていった。



夢のような時間は過ぎてしまい、

後に残されたのは蒸し暑い風だった。


結局、炭酸のジュースしか残っていなくて、


私はおにぎりとグレープの炭酸という、

最悪の組み合わせでお昼をすませた。


でも、その間もずっと、




私の心の中には、

少し驚いた顔の男の子がいた……。
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