甘くないコーヒー
駅前の母子の像の前で待ち合わせをしていた。

なんて皮肉なんだろうか。母子の像なんて。

明日見は落ち着かない様子だった。オレも落ち着かず、タバコを吸いたいと思っていたが、最近は何処も禁煙だ。


明日見は、一点を見つめた。向こうから、グレーのスカートに白いブラウスを着た女性が歩いて来た。

オレは驚いた。明日見にそっくりだった。明日見が歳をとったら、きっと、こんな風になるんだろう。


今日子は緊張した面持ちで「明日見ね?」
優しくて上品な声だった。

明日見は、何も言わなかった。ただ、瞳に涙を浮かべ、黙って今日子を見つめていた。いや、睨んでいた。


今日子がオレを見た。

「麻生と言います。明日見さんの…」
「この人は、私の味方なの。どんな私も受け止めてくれるの。あなたと違って逃げ出さないの!」

そう言い放つと、明日見は今日子に背を向けた。

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