夏の日の終わりに
 そんな僕の心を代弁するかのように父親の声が飛んだ。

「しっかりせんか。こんなとき親がしっかりせんでどうする」

(なんだ、親父も来てんのか)

 長距離トラックの運転手をしている父親は、いつも家にいるわけじゃない。ここにいるとは思っていなかった。

 しかし、父親にそう言われてもなかなか泣き止まない母親を思うと、なんだか可哀想な気がする。その原因が僕なのだが、このときは医師と父親の口調がそうさせたのだと信じていた。

(大丈夫だって。こんなもんすぐ治るからさ)

 そう言って安心させたい気持ちもあるが、事故を起こしたことについてとがめられるのも今はごめんだ。

 少し痛みを我慢してこの場はやり過ごすに限る。



 3日も経つと、痛みは徐々に引いていった。なんとも薬臭い病室とまずい食事には慣れないが、昼といわず夜といわず襲っていた激痛が鳴りを潜めたのは願ってもないことだ。

「もう少ししたら転院することになったから」

 ベッドの傍らの母親はそう言った。

「なんで?」

「ここの設備じゃあんたの手術はムリだって」

「あ、そう」

 あれから両親にはこっぴどく叱られるかと思っていたのだが、意外やそのようなことはなく、珍しくひどく優しく接してくれる。

(ははあ……)

 怪訝に思った僕はそのわけが何となく分かっていた。一生車椅子生活になる息子が不憫で、いまは大事にしてやろうと言うことか。

「あのさ」

 あまり気落ちさせても可哀想だ。僕は母親に言った。

「足、すぐ良くなると思うんだけど……心配することないよ」

「そうね、きっと良くなるよ」

 そう答える母親の表情は、作った笑いに物憂げな目が不釣合いに同居している。

(絶対信じてねえな……)


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