夏の日の終わりに
 心配の種は他にもある。

 まずは学校だ。今でも単位の危機にさらされているのに、どうも長期入院は避けられそうにない。

 2ヶ月くらいは入院しないといけないだろうというのが僕の予測だ。

 指折り数えて単位の計算をするが、今後は真面目に学校へ行かないと進級は危なそうだ。

(まいったな……)

 もちろん医者の診断は、とてもそんな期間で退院出来るほど甘いものではなかった。



 さらに二週間が過ぎる頃、僕は転院することとなる。

 最初に運び込まれた病院は片田舎だが、整形外科としては市内でも名の知れた腕の良い病院と評判のところだった。そこより信頼できるところと言えば、大学病院しかない。

 市内でも最も有名な国立の大学病院。そこが次の入院先で、振り返ってみればその後の人生を大きく変えた場所がそこだ。


 ストレッチャーで救急搬入口から運び込まれると、長い廊下が延々と続く。すれ違う患者たちや医師、看護師。その数から見ても、相当数の人間がここにはいる。

 流れてゆく天井を眺めながら、その病院の規模には感心させられていた。

 やがてその中の一室に運び込まれると、長い時間待たされてレントゲンを撮られ、そしてまた移動。

 今度も随分待たされた挙句、大勢の医師に囲まれて、まるで見世物のようにさらし者だ。

 傷病の説明と治療方法の検討しているようだが、もちろん僕には何の話をしているかは分からないし、意見を求められることなどあろうはずもない。

 もし「何か意見は?」と聞かれたら迷わずこう答えたろう。

「早くゆっくりしたいんだけど」


 イライラを募らせながらその医師たちから開放されると、また長い廊下を巡り、エレベーターに乗り、ようやく目指す病室へと放り込まれた。

(大丈夫か?)

 その無慈悲とも思える病院側の対応に、わずかに不安がよぎった。
 
< 11 / 156 >

この作品をシェア

pagetop