夏の日の終わりに
 まさに針のむしろ。一瞬にして四面楚歌となったリビングでしばし言葉を失っていたが、周囲の目は一向に興味を逸らしそうにはない。

 大きく息を吸い込むと、僕は覚悟を決めた。

(どうせいつまでもごまかせる訳ないしな)

 席を立つとエレクトーンへと歩み寄る。そして席につくと

「ちょっとだけな」

 と言って鍵盤に指を下ろした。

 理子くらいになると、上手い下手はすぐに分かるだろう。ましてやど素人の演奏だ。その先どんな反応をするかくらいは分かっている。

 それでも必死に弾くと、森君や釘尾さんは「ほおおー」くらいの反応はしてくれた。しかし理子と妙子さんは特に反応を示さない。

(まあ、そうだろうな)

 ごめんと言う代わりに、理子の肩をポンと叩いた。

 理子もそれで分かったのだろう、それからその話題に触れることはなかった。


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