夏の日の終わりに
罪と罰編
降臨
その日はあいにくの雨だった。
砂丘と海岸に挟まれた一本道を淡々と走る。
普段は観光客で賑わう場所だったが、ワイパーがせわしなく雨粒をふき取るフロントガラスから見える灰色の風景は、どこまでも悲しげに見えた。
お互い話す言葉を選ぶように口数は少なかった。
僕にはかける言葉が見つからない。それを察しているのか、気を使う理子の方から時々言葉は発せられた。
「今度は違う病院に入院するの」
「え、そうなの。何て病院?」
教えてくれた病院は市内でも有名な癌専門の大病院だ。
ただし、有名とは言ってもそれは治療よりも末期癌患者のホスピスとしての役割が大きいところだと記憶している。
明るい話題じゃない。
心が悲しみに染まる。濡れた路面を蹴るタイヤが奏でる静かな音。その細い水音は、僕の悲しさを一際にさせた。
左手に海を挟んで雨に煙る市内のビル群が見える。その景色をぼんやりと眺める理子がポツリと言った。
「ねえ、去年花火見た所ってどこらへんかな?」
雨粒が不規則に線を描くサイドウィンドウ越しに目を凝らすが、遠い対岸までは見渡せない。
「んー、見えるかなあ?」
「あの辺?」
指差す方向を確かめる。
「曇ってるからなー……」
曖昧な返事を返すと、それきりまた沈黙が流れた。
道はそれから先、砂丘が途切れて一気に視界が開けた。両脇を海に囲まれた市内でも有名な観光名所だ。
開けたのは道だけじゃない。いつの間にか雨もほとんどやんでいた。
「わあ、脩君。両方海!」
その景色にようやく心が晴れたのか、今日初めて明るい声が飛び出した。
「すごいね!」
「おう、晴れてたらもっと綺麗なんだけどな」
「ちょっと停めてもらって良い?」
「ああ、いいよ」
砂丘と海岸に挟まれた一本道を淡々と走る。
普段は観光客で賑わう場所だったが、ワイパーがせわしなく雨粒をふき取るフロントガラスから見える灰色の風景は、どこまでも悲しげに見えた。
お互い話す言葉を選ぶように口数は少なかった。
僕にはかける言葉が見つからない。それを察しているのか、気を使う理子の方から時々言葉は発せられた。
「今度は違う病院に入院するの」
「え、そうなの。何て病院?」
教えてくれた病院は市内でも有名な癌専門の大病院だ。
ただし、有名とは言ってもそれは治療よりも末期癌患者のホスピスとしての役割が大きいところだと記憶している。
明るい話題じゃない。
心が悲しみに染まる。濡れた路面を蹴るタイヤが奏でる静かな音。その細い水音は、僕の悲しさを一際にさせた。
左手に海を挟んで雨に煙る市内のビル群が見える。その景色をぼんやりと眺める理子がポツリと言った。
「ねえ、去年花火見た所ってどこらへんかな?」
雨粒が不規則に線を描くサイドウィンドウ越しに目を凝らすが、遠い対岸までは見渡せない。
「んー、見えるかなあ?」
「あの辺?」
指差す方向を確かめる。
「曇ってるからなー……」
曖昧な返事を返すと、それきりまた沈黙が流れた。
道はそれから先、砂丘が途切れて一気に視界が開けた。両脇を海に囲まれた市内でも有名な観光名所だ。
開けたのは道だけじゃない。いつの間にか雨もほとんどやんでいた。
「わあ、脩君。両方海!」
その景色にようやく心が晴れたのか、今日初めて明るい声が飛び出した。
「すごいね!」
「おう、晴れてたらもっと綺麗なんだけどな」
「ちょっと停めてもらって良い?」
「ああ、いいよ」