夏の日の終わりに
「あ、こっちは脩君。理子の前の病院で一緒だったお友達」

 おばちゃんは僕を紹介しながら席をすすめてきた。

(お友達?)

 彼氏などと人前で堂々と紹介するのも確かにどうかとは思うが、それでもそう言われては何だか胸がモヤモヤする。

 僕は渋々、その座り心地の悪い席に腰を下ろした。


 いくらも経たないうちに手術室のランプは消え、やがてストレッチャーに乗せられた理子が痛々しい姿で出てきた。

「理子がんばったね」

「お疲れ、理子」

「大丈夫か?」

 すでに意識を取り戻していた理子に群がるように学校の友人らが取り囲み、ほとんど声を出せない理子に次々と言葉をかける。

 僕はそれを眺めながら、一番後ろをついて行くしかない。それはどうしようもない状況だった。

 部屋に入ってからも僕の割り込む余地は残されていなかった。

 アイドルを囲むファンのようにベッド脇にはべる友人らは、疲れ果てた理子を無視していつまでも話しかけるのをやめないでいる。それは延々と続きそうに思われた。

(仕方ないか)

 これ以上こんな苛立つ場所にはいられない。

「理子、またな」

 聞こえたのか聞こえていないのか、それすらどうでもいい。こんな苛立つ場所にこれ以上居られなかった。そのまま振り向かずに部屋を出る。

「脩君?!」

 慌てたように部屋を出てきたおばちゃんに呼び止められた。

「用事があるから。理子の無事を確認したらそれで良いんだ」

 僕は歩くのを止めない。そのままエレベーターホールに着くと、何度も下へ降りるボタンを押した。もちろん用事などない。

 後ろからはおばちゃんが追いかけて来ていた。

「また来るから」

 僕の心を少しは汲んでくれたのだろうか? おばちゃんは申し訳なさそうに「ごめんね」とだけ言った。

 
 
< 123 / 156 >

この作品をシェア

pagetop