夏の日の終わりに
 顔を合わせなくなってどれほどの日にちが経っていたと言うのだろうか。長いと思うほどの記憶はないはずだ。

 しかし訪れた先で僕が見たものは、かつての理子とは思えないものだった。

 肌に艶が無くなり、目は少し窪んで唇は渇ききっている。そこに以前の活発な少女の面影を見ることは出来なくなっていた。

 僕はそのあまりの変わり様に愕然とした。

「ちょっと久しぶりで……ごめんな……」

「ううん、こっちこそごめん」

 その言葉に僕は何食わぬ顔をした。

「ごめんって、何が?」

「だって……」

 嫉妬してるように思われるのが嫌だったのかも知れない。でも僕はきっと自分の心の狭さを見透かされたようで恥ずかしかったのだろう。

「俺も色々忙しくてさ。あんまり見舞いに来れなかったんだ」

 そのあからさまな言い訳は嫌味だったろうか、理子はまた泣き出した。

(またか……)

 このところ二人きりになると必ず涙を流すようになっていた。僕はそのたびに涙を止めるのに奔走するはめになる。

 それが今日に限っては思わぬ展開となった。

「死んじゃったら学校の友達とも会えなくなるし……」

 その言葉が今まで抑えていた僕の怒りと嫉妬をあらわにさせた。

「じゃああいつらに元気づけて貰えよ。あいつらとならいつも笑って楽しそうにしてるじゃん。俺と居るとそんなに辛いの?」 

 その言葉を言ったとたん、胸が激しい痛みに襲われる。

(しまった!)

 それは言ってはいけない言葉だとわかっていた。わかってはいたが、一方では抑えきれない怒りが僕の行動を決定付けていた。

「今日は帰る」

 涙を頬に張り付かせたまま、凍りついたように動かない理子。僕はそれを無視して荒々しく玄関のドアを開けた。

 心がギリギリとよじれるように痛い。恐らく理子はもっと痛いだろう。そう考えると更に痛みは増した。

(本当はわかってるんだ、本当は……)


 その痛みを抱えながら、僕はついさっき走った道を取って返していた。
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