夏の日の終わりに
 翌日、学校へ行ってからも胸の痛みがどうしても抜けない。

 僕は早退(フケ)て理子のところへ行こうかどうか迷ったが、僕のくだらないプライドはそれを許さなかった。

 昼休みになると昼食を買いに行くことにした。食堂で知らない奴らに囲まれて昼食をとる気にはならない。今まで一緒に食べていた元同級生は皆卒業してしまっていた。

 すでに登下校以外はほとんど松葉杖を使っていない。少し頼りないがそれでも変に注目されるよりは気が楽だ。

 いつものことだが、売店の前はさながら配給を待つ難民のような学生で溢れ返っていた。

(これがなあ……)

 その小さな戦場のようになった人の群れに飛び込んで行くのは気が重い。それでも仕方なく強引に割って入った。

 何とか手にしたのはサンドイッチ。しかし今度は流れに逆らって脱出しなければならない。これも骨が折れる。

 僕は肘で押し分け、人の群れを掻き分ける。

「チッ!」

 その時、耳元に舌打ちが飛び込んでくる。その方向に目をやると、坊主頭の柔道部員らしき男がこちらを睨んでいた。肘が当たったことに腹を立てたらしい。

 加害者だとか被害者だとか関係ない。イラつく僕は一瞬で火が点いた。

「なんだコラ」

 先に口火を切ったのは僕のほうだった。

「はあ? お前こそなによ」

 体格の違いからか舐めてかかってるのだろう。喧嘩はどうか知らないが、ガラの悪い連中とつるんでいるのを見た覚えがあった。

「おう、ちょっと来いや」

 凄む坊主頭が親指で後ろを指した。人けの無いところで一戦交えようというのだろうが、そうはいかない。

(喋る暇があるのかって──)

 喧嘩は先手必勝が鉄則だ。

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