夏の日の終わりに
 僕はかたわらに寝そべる。目をつぶったまま呼吸を小さくしてゆくペロ。

 その頭をそっと撫でると、かすかに目を開いた愛犬は力なく僕の指をなめる。その動作だけで苦しそうに見えるが、それでも残る力を振り絞るようにして僕の指に舌を絡めた。

「じっとしてろって」

 僕はずっと触れていたかったが、そのたびにペロは必死に反応しようとする。

 残りわずかな命に触れていたいと思う僕と同じように、ペロも残った命で僕に触れたかったのだろう。

 時間はすでに深夜を過ぎようとしていた。

 震えを来たす体を抱きしめると、その呼吸音が伝わってくる。僕はこの愛犬との思い出を辿りながら、そしていつの間にか眠ってしまった。




(あ……)

 目が覚めると、窓の外は薄い赤紫の雲が覆っている。夜明けまで眠っていたようだ。思い出したように手の中のペロに意識を戻す。

(ペロ?)

 わずかに開いた口、しっかりと閉じたまぶた。そして冷えた体はずっしりと重い。

「おい、ペロ」

 僕はその時悟っていたはずだ。もうペロはこの世にいないと言うことを。

 それでも認めたくなくて何度も揺すっては名前を呼んだ。何度も揺すって、揺すりながら自然とあふれ出た涙が頬を伝う。



 そしてようやく僕は起こすのをやめた。

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