夏の日の終わりに

太陽と罪

 この年の夏休みはそれほど楽しい気分で迎えられるようなものじゃなかった。

 すでに仕事を休業し、ずっと家にいるおばちゃんの疲労の色が濃くなっている。それは僕も同じだった。

 毎日一緒に居たいという気持ちとは正反対に、常に緊張感の漂う家の中にずっと居ることは、僕を想像以上に消耗させていた。

「たまには息抜きしたら?」

 そんな僕に気を遣って、おばちゃんはそんなことを言ってくれる。見た目にも分かるのだろうか。

 理子は言葉少なく、動くのも辛そうだ。

「理子、気分はどう?」

「うん、今日は良いかも」

 いつもそう言うが、目に見えて衰弱が激しくなってゆく。僕は訪れるたびに目を背けたくなる衝動に駆られていた。

 くじけそうになる僕の弱い心を奮い立たせなければ、すぐに現実から目を逸らしたくなる。

 そんな弱い自分が情けなかった。



 八月に入ると理子は四度目の入院をする。そしてまたもや手術を行った。

 今までと違い、その手術にそれほど光明を見出せるわけじゃない。わずかな延命のためだと、そんな疑問を打ち消すことが出来ないでいた。



 術後の理子は眠っている。その顔にはもう疲れきった色が浮かび、見るだけで胸から突き上げてくる感情が湧いた。

(なんで理子が……)

 このところその想いが強くある。

 しかしそれが理子でなくて他の人であったとしても、やはりその人の周りの人間は同じように苦悩するのだろう。

 人と人は強い想いで繋がっている。

 しかしその考えを覆すように、僕は切実に願った。

(もっとくだらない人間がそこかしこにいるのに)

 どう考えても理子がこの病気にかかる事は間違っていると思う。



 病室の外からおばちゃんが呼んだ。談話室に行くと一層声をひそめ、そして思いつめるように事実を告げた。

「脩君、理子の病気ね。黙ってたけど……」

「知ってる」

 口に出すのも辛いだろう。僕はその言葉を察して先に答えた。

 おばちゃんはしばらく押し黙ったまま僕を見つめると、ひとこと「そう」と言ったままうつむいた。

< 138 / 156 >

この作品をシェア

pagetop