夏の日の終わりに
 確かに最後の夏休みだ。卒業したら就職を考えているのだし、一日くらい羽を伸ばしたところで罰は当たらないだろう。夕方までに帰ってくれば、それから病院へ行っても十分間に合うはずだ。

 僕はその話に乗った。



 夏の日差しってこんなに眩しかったんだなと、久しぶりに体中に浴びる日光が思い出させてくれる。

 更衣室を出てプールに出ると、そこには別世界が広がっていた。

(はあー……)

 ため息すら出ない。日差しもそうだが、水着姿の女の子が眩しくて仕方がない。この日は夏休みの最終日とあって、家族連れもそうだが、高校生や中学生も多くいた。

 こんな場所に来るのは事故以来もちろん初めてのことだ。それまでの夏は確かに海にプールにと男同士で出かけ、女の子に声を掛けて回っていた。

 色とりどりの水着が水に弾けて歓声が上がっている。ビーチボールが飛び交い、浮き輪が踊った。

(それにしても……)

 あまりにも対照的に思えてならない。理子が元気ならばあそこに混じって一緒に遊んでいるのだろうが、現実は違う。

 もちろんあの女の子たちにも個々に悩みがあって、それは彼女らにとっては決して小さなものじゃないと思う。「幸せでいいね」などと言おうものなら、それこそ目くじら立てて噛み付いてくるに違いない。

 それでもやはり、理子との境遇の違いを簡単に割り切ることができない。



 複雑な想いで眺める僕を勘違いしたのだろう。友人は僕の視線を追った。

「おい、あの娘らどう?」

 友人の指先に居たのはオレンジと紺のビキニを着た二人組。確かにこの中ではまずまずのレベルじゃないかと思う。

「いいんじゃない?」

「じゃあ頼むわ」

「俺?」

 人を無理やり誘っておいて、この場面でさらに仕事を押し付けてくるとはどういう了見だろうか。

「切り込み隊長、頼むよ」

 以前は僕が声を掛けることが多かったのは確かだ。しかし今回だけは遠慮したかった。



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