夏の日の終わりに
「いや、これ……」

 僕は自分の脚を指差して見せる。まだ両方の太ももには赤黒い手術の痕が何本も残っていて、この夏の日差しの中ではいかにも不釣合いに思えた。

「大丈夫だって、気にならないって」

 そうは言ってもやはり腑に落ちない。グズる友人の背中を押すと渋々覚悟を決めたようだ。

「しゃあねえな、そんじゃ俺が行くか」

(つか、それが当たり前だろうが)

 腰が引けたまま突撃した友人だったが、案の定手をこまねいている様子だ。紺色の水着の女の子はそっぽを向いてその場を離れてゆく。

(ったく、しょうがねえな)

 仕方なく助け舟を出すしかない。僕は先回りすると、その紺色のビキニの娘をキャッチした。



 太陽がやや赤みを帯びてきた頃、プールの駐車場には僕らのほかに例の女の子が二人ついて来ていた。

 友人は助手席のバックレストを前に倒して女の子らを後部座席に誘導している。まるで風俗の客引きみたいだ。

「ごめんねえ、後ろ狭いだろ?」

「大丈夫大丈夫、全然平気ぃ」

 確かにこの車の後部座席は極端に狭い。人を乗せるのに躊躇するほどだ。

(しかしコイツに言われる覚えはないだろ)



 そんな狭い車内で耳に突き刺さりそうなほど黄色い声が反響する。女の子らのテンションは、すでに僕を置き去りにしていた。

 しかしそれに食いついていく友人もまた凄い。

「ねえ、これからカラオケ行こうか?」

「カラオケ行くー!」

「カラオケイエーイ!」

「イエーイ!」

 走り出した車の中で、さっきからこの「イエーイ」を何度聞かされたことか。何がそんなに楽しいのだろうか。何にそれほど浮かれているのだろうか……

 そんなことを考えているとは知らない女の子は、前に身を乗り出して僕を話に引きずり込もうとする。

「ねえ、脩はどんな歌唄うの?」

(呼び捨てかよ)

 この娘らは僕らの一年下で、近くの高校に通う女子高生だった。理子と同い年だ。友人のテンション芸人のような寒いギャグに大笑いし、時折耳をつんざくような奇声を上げては僕の顔をしかめさせていた。

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