夏の日の終わりに
「俺? 最近の歌は知らないね」

 正直答えるのもしんどくなってきた。

 もちろん昼間は開放感も手伝って、一緒にはしゃいで遊んでいた。しかし時間が経つにつれて、苛立ちと焦りが湧いてきた。

 理由はハッキリしている。

 理子とこの娘らとを比べてしまい、どうしても溶け込めないのだ。何も知らないままこの場に居れば、僕も同じく「イェーイ!」を連発し、一緒にはしゃいでいただろう。

 しかし、僕はもうあの頃には戻れない。

 この娘らは明るい太陽の下、遊び、学び、恋を楽しみ、青春を謳歌して……きっとこれを普通の人は生きてると実感するのだと思う。

 でも僕には死の淵にあっても必死に闘っている、生とは対極に居るはずの理子のほうがより生きているように思えてならない。


 僕はあの頃から変わったのだろうか?




 やがてカラオケ店の駐車場に車を乗り入れると、先に皆を降ろした。女の子らに先に店内に行くように促すと、再びエンジンに火を入れる。

「おい、何してんだよ」

 運転席側に回り込んだ友人がいぶかしげに問い詰めた。

「すまん、やっぱ帰るわ」

「ええ、何で? ここまで来たら食えるぜ」

「いや、そんなんもうどうでも良いから……すまん」

「ちょっとー、マズイだろ、それ!」

「本当悪りい。埋め合わせすっから」

 まだ説得しようとする友人を無視して僕は車を発進させた。

(何してんだろ、俺?)

 少しでも夏の開放感に浮かれていた自分にヘドが出そうだ。いま自分がやるべき事はこんなことじゃないはずだ。


 一分一秒……


 その重さを僕は忘れていた。



 そんな僕をあざ笑うかのように、道は行楽客の帰りで渋滞だ。どこまで先を見てもテールランプが連なっていて動こうとする気配すらない。

 コンソールのデジタル時計はすでに午後8時を過ぎており、これから病院までにはさらに1時間はかかる。ハンドルを指で叩く時間が多くなった。

(ちょっと無理かな)

 このままでは消灯時間にはとても間に合いそうにない。少しくらいなら許されるだろうが、あまり遅くなっては──
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