夏の日の終わりに
 寝不足と痛みで朦朧とする朝。その僕とは対照的に明るい顔をして病室を訪れたのは林医師だった。

「どうです、すごいでしょう」

 と、大きな封筒からレントゲン写真を取り出すと、僕の前にかざしてみせる。

「まじですか? これ」

 骨折後のレントゲンと違って、これなら素人目にも明らかに分かる。何十本ものボルトやワイヤー、プレートなどが所狭しと骨に埋め込まれていた。

「こちらが左ですね」

 もう一枚のレントゲンも右足と大差ない。

 ひとしきり僕らに写真を見せた後、林医師は腰に手を当てて息を吐いた。

「大手術になりました。かなり骨が飛び散ってたからね、腰の骨を削って移植したりしてね」

 どうりで腰にも激しい痛みがあるはずだ。予想よりだいぶ酷かったと強調する林医師の言葉に、またもや不安が頭をもたげてきた。

 不安なことを問うのは勇気がいる。軽く聞いてみるつもりが、僕は少し言葉を詰まらせた。

「あの……」

「はい」

「成功ですか?」

「うん、出来る限りうまくやれたとは思いますよ」

「いつくらいに退院できます?」

 その話になると林医師はすこし言葉を濁す。

「まだまだ先の話ですねえ。骨がくっついてもリハビリが問題ですから」

「リハビリなんて楽勝ですよ」

 よく復帰をかけたスポーツ選手などがリハビリをやっている光景をテレビなどで観るが、単に足を曲げたり伸ばしたりしているだけだ。

 しかし、ここでいつもは無表情な林医師が、意味深にニヤリと笑う。

「どうですかねえ?」

 その含んだ笑いの意味を、僕は後々思い知らされることとなる。
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