夏の日の終わりに
 数日のうちに痛みはひいた。

 そうすると今度は周りを見渡す余裕が出てくる。僕のいる病室は二人部屋で、ベッドも並んでいるわけじゃなく、向かい側にある。おまけに足に毛布がかからないように、鉄の骨組みの大きなトンネルが被せられていた。

 したがって視界も限られていて変化に乏しい。

 僕は次第に暇を持て余すようになっていた。


「こんなときに本くらい読んだら?」

 母親は何やら難しそうな本を何冊も持ってくる。しかしそのどれもが僕には読む気にもならない。

 いくら暇でも読みたくないものは読めないものだ。

「おい、脩(シュウ)。これ面白いぞ」

 と、兄貴が持ってくる本はさすがにツボにはまった。

 それでも次第に興味は外へと向けられる。僕の視線は自然と開けられたドアから見える、わずかな廊下を覗き見るようになった。

 そこでは入院患者や看護師、医師らがひっきりなしに往来する姿がある。

 歩行器でよたよたと歩く中年女性。松葉杖で意外と早く歩く男性。車椅子で駆け抜ける女の子。その車椅子で駆け回る連中はとびきり元気が良かった。

 病院内とは思えないスピードで右から左にすっ飛んで行く。その全員が例外なく若い。

 僕はその中で二人の女の子を意識して見るようになった。

 一人は栗色の髪をなびかせる少し年上の女性。おそらく大学生だろう。はっと目立つ美人で、知的な印象をうかがわせる。

 もう一人は中学生と見られる女の子だ。

 小さな体が一瞬でわずかな視界を通り過ぎる。ちらりと見るだけでもいつも白い歯を見せて笑っていて、かなり活発な女の子だという印象だった。

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