夏の日の終わりに
 その女の子たちがこの部屋へやって来た。

 ぼーっと廊下を眺めていた僕の前に突然現れたのだ。驚いた僕は慌てて手元にあった本を取り上げ、読書に没頭しているふりをしながらその様子を盗み見る。

 彼女らの目的は当然僕ではなかった。

 この部屋の同居人。それはまだ3歳くらいの男の子だった。その子の遊び相手としてやってきたのだ。

 そこで僕は自分の目を疑った。

(あれ? 二人いる)

 中学生くらいの活発な女の子が入ってきたあと、続いて姿を現したのはやはり同じような女の子だったのだ。

 背格好も同じ、髪型も同じ。何より特徴だったのは、車椅子に木の板の支えを乗せ、その上にピンと伸ばした脚を乗せていることなのだ。

 よくよく見ると確かに顔は違うし、その伸ばした脚が一人は左、もう一人は右とわずかに違う。僕が目を留めていた娘はおそらく右足を伸ばした娘だ。一際明るい笑い声と表情でそれはすぐに分かった。

 ひとしきり黄色い声が病室を満たすと、僕はなんだかのけ者にされたような気分になった。情けない話だが、小さな男の子に大人気無く嫉妬を燃やしたりしている。

(ガキのくせに……)

 本当に情けない話だ。


「バイバーイ」

 ようやく病室を去るようだ。またしても本を取り上げてそっけないフリを演じ、そして彼女らの去り際をチラリと見る。そのとき──


 活発な女の子の視線とまともにぶつかった。


 胸の奥に火が灯されたような熱と軽い痛み。明らかに僕はとまどい、そして視線を外すことを忘れている。

 その娘はそんな僕を軽く受け止めるように白い歯を見せて、そして笑顔を見せた。


 一瞬思考が止まった僕をよそに、彼女はスルリと車椅子を廊下へ走らせ、風のように消えてしまった。

(ガキみたいに……)

 トクン……と、脈を打った胸。


 別に硬派なわけじゃない。しかし女にうつつを抜かす自分はカッコ悪くて嫌いだ。
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