夏の日の終わりに
(リスみたいな娘だったな)

 小さな体とちょこまかと動き回る行動。なにより白くのぞく前歯がその印象を強くした。

 あれからしばらく経つが、彼女らはこの部屋にはやって来ない。もちろん毎日廊下を走り回っている姿は目にするが、あの娘があれをきっかけに話しかけてくることもなく、目線を合わせることすらなかった。

(自意識過剰?)

 あの笑顔に僕は少し勘違いしていたのかもしれない。


 そんな折、母親からこんなことを伝えられる。

「明日から大部屋に移るけど、良い?」

 二人部屋は静かで気兼ねは無いが、あまりにも退屈すぎる。かといって、大勢の入院患者に混じっての生活も正直ウザいと思っていた。しかしどちらかと言えば退屈から逃れるほうに魅力がある。それに何より入院費がバカにならない。

 事故の原因になったワゴンの運転手は逃げたままで、誰かがうちの家庭に補償してくれることなどなかったのだ。

「いいよ、別に」

 移動はベッドごと行われる。入った先は中年が多い六人部屋だ。

「よろしくお願いします」

 母親とともに挨拶しながら、なんとも胡散臭そうな連中だとやや警戒していた。別にそんなことは無いのだろうが、高校生から見た中年というのは誰しもそんな風に見えてしまう。

 あの事故からすでに二ヶ月以上の月日が経っている。当初の予定では僕はすでに退院して学校への道をうんざりしながら歩いているところだ。

 進級は絶望的だといえた。


 窓から見える景色が薄い灰色の雲に覆われ、秋が深まっていることを告げている。こうして僕の本格的な入院生活が始まった。

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