夏の日の終わりに
当然、ここのところ天狗になっているのは否めない。
──俺は特別だ。
その妄想に心が囚われてしまっているのか、さらに病的にスピードを求めてしまう。
また一台のトラックを追い抜くと、その暴力的な走りに怒りを覚えたのか、すでに遠くに去りつつある背中にクラクションを浴びせてきた。
(お前がのろまなんだよ)
ヘルメットのなかで薄笑いを浮かべながら、なおもスピードを乗せた。メーターはすでに150キロを超えようとしている。
こんな速度で転倒したらどうなるのか?
そんな考えがないわけじゃない。恐らく死ぬだろうと思っているし、その覚悟も併せ持っているつもりだ。
死を常に隣においておかないと生を実感できないのかもしれない。
まさに命綱の綱渡り。己の命をもてあそぶような、そんな愚かで危うい行為に陶酔しきっていた。
ゆるいカーブを抜けた先の交差点。そこの信号が青から黄色に変わる。
多少の距離はあるが、メーターを確認すると160キロに達しようとしている。赤に変わるまでには十分な余裕だ。
猛然と交差点に突っ込んでゆく鉄の馬。
その時、僕の脳裏に走る不安──いや、それは警鐘だった。
(──っ?!)
注意深く前方を凝視する目に不安は見あたらない。対向車線を走る紺のワゴン車はウインカーを出してはいない。歩行者もいない。
危険はない──
はずだった。
──俺は特別だ。
その妄想に心が囚われてしまっているのか、さらに病的にスピードを求めてしまう。
また一台のトラックを追い抜くと、その暴力的な走りに怒りを覚えたのか、すでに遠くに去りつつある背中にクラクションを浴びせてきた。
(お前がのろまなんだよ)
ヘルメットのなかで薄笑いを浮かべながら、なおもスピードを乗せた。メーターはすでに150キロを超えようとしている。
こんな速度で転倒したらどうなるのか?
そんな考えがないわけじゃない。恐らく死ぬだろうと思っているし、その覚悟も併せ持っているつもりだ。
死を常に隣においておかないと生を実感できないのかもしれない。
まさに命綱の綱渡り。己の命をもてあそぶような、そんな愚かで危うい行為に陶酔しきっていた。
ゆるいカーブを抜けた先の交差点。そこの信号が青から黄色に変わる。
多少の距離はあるが、メーターを確認すると160キロに達しようとしている。赤に変わるまでには十分な余裕だ。
猛然と交差点に突っ込んでゆく鉄の馬。
その時、僕の脳裏に走る不安──いや、それは警鐘だった。
(──っ?!)
注意深く前方を凝視する目に不安は見あたらない。対向車線を走る紺のワゴン車はウインカーを出してはいない。歩行者もいない。
危険はない──
はずだった。