夏の日の終わりに
 それをきっかけに若い連中は僕のベッドの周りにはべるようになり、そのベッドの上ではカードを使った賭けが行われていた。

「はい、ドボンね」

「ええ、また美香ちゃんかよ」

 どっと場から力が抜けたように全員が天を仰ぐ。

「はいはい、100円ね」

 そう言って栗色の髪を掻き分けながら楽しげに賭け金を回収するのは美香さんだ。関東の国立大学に通っていて、僕の三歳年上。高校生の僕には刺激が強すぎる大きな胸が目の前に来ると、目のやり場に困ってしまう。栗色の髪だけでなくその瞳も栗色で、色白の肌と相まって、少し日本人離れした印象をうける。

「イカサマしてんじゃないの?」

 そう毒つきながらしぶしぶ財布の口を開けているのは森君。中学三年生だが、小太りな姿と大人びた口調から、とっちゃん坊やと言われている。

「破産するって」

 投げやりにカードをばら撒くのは釘尾さん。車の整備工場に勤める十九歳だ。リーゼントが崩れるのが気になるらしく、いつもコームで髪を撫で付けるのがクセになっている。

 そして理子と僕を加えた五人がいつものメンバーとなっていた。


 しかしその中にもう一人いたはずの女の子がいない。理子に似たあの女の子だ。



「藍ちゃん?」

 理子と二人になった時だ。なにげなくその娘のことを聞くと、その名前が出てきた。

 この大部屋にくる前までは、皆と同じように廊下を走り回っていたはずだ。それがここしばらく全く姿を見せていない。いつの間にか退院したのかも知れない。僕とは面識がないのだからわざわざ知らせに来ることなどないだろう。

 しかし実情は大きく違った。

「藍ちゃん具合悪いみたいなの」

 一転して理子は暗い表情を見せる。それでも僕は

「あ、そう」

 というくらいの感想でしかない。まあ他人だからそんなものだ。

「藍ちゃんていくつなの?」

「十六。脩君と同じ年」

「そっか。同じ年か……」

 元気になったらここに来るだろう。同じ年だということは喜ばしかった。

 それきり藍ちゃんの話は打ち切り、質問ついでに理子の脚について話題を変えた。
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