夏の日の終わりに
「ねえ、理子はその脚どうしたの?」

 そういえば会話をかわすようになって幾日も経つのに、そのことについて触れたことはなかった。

 予想では僕と同じ骨折かな、と思っている。ピンと伸ばした脚を見ながらそう言ったが、しかしその予想は大きく違っていた。

「んとねー、骨腫瘍っていう病気」

「病気?」

「うん、骨に腫瘍が出来たの。ここ、膝のところにね。膝の関節切り取って鉄の棒が入ってるの」

 初めて彼女の症状を聞いた。耳慣れない『骨腫瘍』という病名について、僕には何の知識も持っていない。

(それにしても……)

 膝の関節を切り取ったということは、万が一にも元通りの足には戻らないわけだ。まだ十五歳という年齢でこの事実を突きつけられるのは、想像すら及ばない悲劇というしかない。

 僕の場合はまだ望みがある。例え一生車椅子の生活となっても、すべて自分の責任と受け止められる。

 自分の一つ一つの選択が今のこの結果を招いたのだ、と。


 だが、これが病気であったなら、自分の運命を受け入れられるのだろうか?


「でもね、人工関節とかあるから多分歩けるようになるよ」

 僕の思考を遮るように理子は明るく言った。
 
「そうか、人工関節なんてものがあるんだ。それなら歩けるようになるんだ」

「うん、だから心配してないの」

 おそらく僕の心を見透かしてフォローしてくれたのだろうが、そう理解するには、僕は若すぎた。

「中学校の時は陸上部だったんだ。足速かったんだよ。でも急に膝が痛くなって、で病院に行ったらすぐ入院って……。もう走る感覚わすれちゃった」

「だろうね。そう言えば俺も……」

 入院して3ヶ月。確かに走ってた頃が……いや、歩いてたことさえ遠い昔のように感じる。
 
(じゃあ理子は?)



 理子は入院してすでに1年経っていた。

 
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