夏の日の終わりに
 翌朝、目を覚ましたのは朝食が運ばれてきた時だった。

「んー……」

 朝食を運ぶついでに看護助手のおばさんが僕を叩き起こす。ちなみに検温のときにも一応は起こされるのだが、半分寝たままの脇に勝手に体温計を差込んで計られているようだ。

 とにかく僕はことのほか寝起きが悪い。

 目やにをこすり落としながら薄目を開くと、目の前の朝食メニューには信じられないものが並んでいた。

(高野豆腐だと!?)

 眠気が吹っ飛ぶショックを受けるほど、僕は高野豆腐が苦手だ。煮汁がじわりと口の中に広がる感触と、あるのかないのか分からない曖昧な食感がどうにも我慢ならない。

 いつもは寝起きでもがっつく僕が、箸で恐る恐るつっつく姿に察したのだろう。向かいのベッドの本多さんが腰を上げた。

「食ってやろうか?」

 にやけた顔と禿げた頭が寝起きの僕の疳に触る。上から目線のセリフも気に入らない。

(頭に蛍光灯が反射してんだよ、ハゲ)

 別に嫌っているという訳じゃない。ただ、僕を意固地にさせる雰囲気を漂わせていた。

「いーや、食う」

 そう言い切って、勢いでその食べ物を口に放り込んだ。もちろんその直後、深い後悔をすることになる。

 泣きたくなるような朝だ。

(やっぱやめときゃ良かった)

 そんな僕の眉間のしわを眺めながら、本多さんは引きつった笑い声を上げている。本当にムカつくおっさんだ。
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