夏の日の終わりに
 キリスト教徒でもないのに日本人は何でこんなに浮かれるのだろうか?

 そう、その日は否応なくやってきた。クリスマスイヴだ。

「マジでやんのかって?」

 嫌がる僕がどうあがこうと未だにベッドから微動だに出来ない体だ。手の届かないところは所狭しと飾りつけが施されてゆく。

「脩君、王子様みたい」

 美香さんがこんな悪乗りを見せるとは思いもしなかった。理子と一緒になっていそいそと色紙を切り貼りしている。

 そんな二人とは別行動を取っていた釘尾さんと森君はフライドチキンや飲み物を買い込んで戻ってきた。どうやらマジでやるつもりのようだ。


 宴の開始を告げたのはクラッカーだった。

 一斉に歓声があがり、病院とは思えない賑わいが室内を満たす。整形外科は他の病棟と違い、直接生死に関わるような入院患者は少ない上、年齢層も低いのが特徴だ。

 そのため、内科や外科とは明らかに患者の表情が違う。看護師の管理も明らかに甘いし、騒音を訴える野暮な患者もいなかった。

(でもさあ……)

 いくらなんでもやり過ぎだと思う。

 居酒屋の喧騒にも似た状況だ。当然のごとく酒も酌み交わされていて、数人の酔っ払いが出来上がっている。もちろん院内での飲酒は厳禁だ。

「シャンパン開けるのって……」

 そう言いながら釘尾さんがスパークリングワインのビンを振り出した。目を丸くしたのは僕だけではない。

「バッカ!」

 美香さんが止めようとしたが、その愚行による惨劇は避けられなかった。一斉に上がる悲鳴の中で、泡を含んだ黄金色のしぶきが病室にほとばしる。

(ヤンキーって、モノを知らんのか?)
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