夏の日の終わりに
 エスカレートする宴会の中で、本多さんはついに虎の子の泡盛を取り出してきた。

「お、それ頂戴よ!」

 これには僕が飛びついた。度数の強い酒が飲みたかったのだ。

 骨折の治癒にアルコールは良くないらしいと看護師から注意されたことがある。なんで高校生の僕にそんなことを言ったかというと、ガラの悪い友人が見舞いに来てはビールを持ってきて一緒になって飲んでいたからだ。

(こんな時くらい良いだろう)

 僕は自分の欲望にはめっぽう弱い。久々に強い酒をあおると、胃がじんわりと熱くなる感覚にしびれ、歓喜の声を上げた。

「五臓六腑だー!」

 理子はと言うと、赤い銀紙を巻いた三角帽子を被り、そんな僕らを見て笑っていた。キラキラと輝く帽子と笑顔。そのコントラストに僕は幸せの構図を見た気がして、つい引き込まれるように見つめてしまった。

 僕の視線に気づいたように理子が振り向く。目と目を合わせると僕は思わず下を向いたが、しかしもう一度目を合わせる。理子は満面の笑顔でそれを受け止めてくれた。

 甘酸っぱい味覚が口の中に広がる。顔がやけに熱いのは泡盛のせいだけじゃないようだ。

 目を合わせたまま何も言えない僕に、理子はクスリと笑うとベッドの毛布の中に手を入れてきた。

(やばい、心臓が……)

 鼓動が早すぎて手が震える。


 恐る恐る手をもぐりこませると、すぐそこに理子の手がある。僕はその華奢な指に触れてしまった。
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