夏の日の終わりに
 数日後、そのベッドが少し様変わりする。

 四隅に鉄枠が組まれると、骨組みだけのやぐらが出来上がる。さながら檻に入った動物の気分だ。上部には滑車が付いていて、そこに通されたロープの一端が僕の膝の後ろに通された。

(なんだこれ?)

 理子も興味津々でそれを見に来た。

「何するの?」

「さあ?」

 そこに現れたのは林医師だった。

「いよいよリハビリですよ」

「ホントに?」

 ずっと固まったままだった脚を動かせるようになる。その光景を思い浮かべながら、カッターで切り裂かれてゆくギプスを眺める。思わず頬を緩ませていた僕は、しかし自分の脚を見た瞬間に凍りついた。

(これが……俺の脚?)

 すっかり肉が落ち、骨と皮になり果てた脚。とうていすぐに回復するようには見えない。いまだ生々しい傷跡は太ももから膝全体に幾本も走り、改めてその凄惨さを思い出させた。

「うわあー……」

 その傷を理子が指でつつく。その瞬間甦る言いようの無い恐怖と痛み。反射的にその指を払いのけた自分に驚いた。

(痛かった……のか?)

 驚いた表情の理子。僕はすぐに笑いかけ取り繕った。

「ごめん、大丈夫だ」

「ううん、痛かった?」

「いや……」

 確かに痛い。しかしそれは恐怖に増幅された痛みだったように思う。まさかこれほどの恐怖を抱えたままだったとは思いもよらなかった。
 
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