夏の日の終わりに
 もがきながら、喘ぎ喘ぎ理子の暴挙に抗議する。

「理子……お前なあ」

 そんな僕の様子が理子にはことのほか面白かったのだろう。少し吹き出すと、悪戯な瞳を輝かせて白い歯を見せた。

「リハビリって強引にやらないと意味ないらしいよ」

 僕とは対照的に涼しげにそう言うと、スルリとベッドから遠ざかる。

「じゃあ、がんばってね」

 そして明るい声と共に、逃げるように部屋を出て行った。

 ようやく息が整った頃、すでに去った後の出口を睨む。

(覚えてろよ……)

 痛む脚を押さえながら、毒付くことくらいしか反撃できない自分が情けない。そんな境遇から脱出するためにもここは踏ん張りどころだった。

(やるしかないか)

 再びロープを握り締めて、その覚悟をした。



 やがて二月がやってくる。その頃、新しい顔がベッドの脇にはべるようになった。

 純和風な美人という言葉がピッタリのその女性は妙子さんと言った。

 美香さんと同じ年で、入院歴は僕より長い。脊髄の手術で入院していて、術後何ヶ月もベッドを離れることが出来なかったそうだ。

「話はいっつも聞いてたよ」

 よほど僕は話題になってたらしい。

「……ガラの悪い友達がよく来るって」

(そっちかよ)

 確かに僕の友人はガラが悪い。特に親しい先輩などは本職かと思う格好でやってくる。その姿を見ると、理子はササササーっとベッドを離れて行った。

「でも脩君はそんな感じじゃないね」

「そりゃそうだ。俺ヤンキーじゃないもん」

 想像していた姿とは違ったと妙子さんは言った。
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