夏の日の終わりに
そんなある日、なにげに外を見ていると丸く大きな月が出ている。照明に照らされた芝生が鮮やかな緑色をたたえていた。
(もう春なんだな)
あまり感じたことのない季節感を思い出した僕は、皆に提案した。
「ねえ、外に出てみようか?」
少し春の空気を吸ってみたくなったのだ。
「いいね、それならカメラ持ってくる」
妙子さんは一旦病室に戻ると、使い捨てカメラを携えて戻ってきた。たかが目の前の公園に出るだけなのだが、それはピクニックにも似た浮ついた気分にさせる。
外に出ると、三月とはいえ気温は想像より低かった。その澄んだ空気に背筋を震わせるが、冬の刺すような冷たさとはやはり違う。
タイヤを芝生に絡ませながらゆっくりと公園を進む僕ら。
見上げると月がのしかかってくるように大きく感じて、僕はしばらく首をのけぞらせてそれに魅入っていた。
「月?」
そんな僕と同じように理子も月を見上げる。
「うん、綺麗だなって」
「そうだね」
僕と理子は同じ風景を見ている。でもそれは捉えかたによって微妙に違うのだろう。そんな他愛のないことを考えながら、首がくたびれるまで眺めていた。
「ツーショットで撮ってあげるよ」
そう言って森君はカメラを構えた。
僕は少し照れくさかったが、理子は「うん」と返事をすると更に車椅子を寄せて並べる。
「もうちょっと寄ってよ」
それは森君のサービスなんだろうか? 僕らは肩をさらに寄せて顔を並べた。
「はい、チーズ」
乾いたシャッター音と共にまぶしい閃光が夜空に走る。その瞬間の風景は僕と理子を取り込んだままフィルムに焼き付けられた。
早春の一枚の思い出として──
(もう春なんだな)
あまり感じたことのない季節感を思い出した僕は、皆に提案した。
「ねえ、外に出てみようか?」
少し春の空気を吸ってみたくなったのだ。
「いいね、それならカメラ持ってくる」
妙子さんは一旦病室に戻ると、使い捨てカメラを携えて戻ってきた。たかが目の前の公園に出るだけなのだが、それはピクニックにも似た浮ついた気分にさせる。
外に出ると、三月とはいえ気温は想像より低かった。その澄んだ空気に背筋を震わせるが、冬の刺すような冷たさとはやはり違う。
タイヤを芝生に絡ませながらゆっくりと公園を進む僕ら。
見上げると月がのしかかってくるように大きく感じて、僕はしばらく首をのけぞらせてそれに魅入っていた。
「月?」
そんな僕と同じように理子も月を見上げる。
「うん、綺麗だなって」
「そうだね」
僕と理子は同じ風景を見ている。でもそれは捉えかたによって微妙に違うのだろう。そんな他愛のないことを考えながら、首がくたびれるまで眺めていた。
「ツーショットで撮ってあげるよ」
そう言って森君はカメラを構えた。
僕は少し照れくさかったが、理子は「うん」と返事をすると更に車椅子を寄せて並べる。
「もうちょっと寄ってよ」
それは森君のサービスなんだろうか? 僕らは肩をさらに寄せて顔を並べた。
「はい、チーズ」
乾いたシャッター音と共にまぶしい閃光が夜空に走る。その瞬間の風景は僕と理子を取り込んだままフィルムに焼き付けられた。
早春の一枚の思い出として──