夏の日の終わりに
外来棟まで来れば誰に見つかることもない。わずかな非常灯しか灯ってないと思っていたが、いくつか電灯は点いたままだ。それほど暗くはなかった。
僕らは少しトーンを抑えて喋りながら、結局は待合室へと来てしまった。
治療棟の手術室やレントゲン室などが並ぶ区画は、さすがに気味が悪くて足が向かなかったのだ。
車椅子を降りて長いすに並んで座ると、そう言えば二人きりになるのは久しぶりだということに気がついた。
(ちょっと、この状況は……)
そう意識すると、僕の胸が不意に熱を帯びる。
高鳴る胸のうちを抑えたまま会話は続くが、理子の表情にはそういった感情は浮かんでいない。こんな時、相手の感情が読めたらどんなに楽だろうか?
会話の内容は本当に雑多なものだった。それでも色気のある話などは全く出てこない。まあ、高校一年生にしては随分幼く見える理子からは、そんな話が出てくるとも思えなかったのだが。
そんな理子をからかっている時だった。頬を膨らませた理子の手が僕の脇に伸びた。
「うわっ、やめろ!」
その過剰な反応に理子の目が輝いた。しまった、と思った時にはもう遅い。体を預けるようにして飛びついてきた両手が僕の脇をくすぐりだした。
「やめ……やめて……わーははは!」
チラリと目に入った理子の目が、ネズミを見つけた猫のように嬉々とした光を宿している。
(や、やばい!)
僕は自他ともに認める超くすぐったがり屋だった。これを食らうと即座に戦闘不能のデク人間に早変わりしてしまう。
「お願い! やめて」
広い待合室は僕の絶叫に満たされた。そのさまを見て、理子の攻撃はさらに激しさを増した。
(死ぬ……マジで死ぬ)
何度も意識を失いそうになるほどの苦しみ。笑い死にというものがあるのなら、その死に方だけは避けたいと心底思う。
僕らは少しトーンを抑えて喋りながら、結局は待合室へと来てしまった。
治療棟の手術室やレントゲン室などが並ぶ区画は、さすがに気味が悪くて足が向かなかったのだ。
車椅子を降りて長いすに並んで座ると、そう言えば二人きりになるのは久しぶりだということに気がついた。
(ちょっと、この状況は……)
そう意識すると、僕の胸が不意に熱を帯びる。
高鳴る胸のうちを抑えたまま会話は続くが、理子の表情にはそういった感情は浮かんでいない。こんな時、相手の感情が読めたらどんなに楽だろうか?
会話の内容は本当に雑多なものだった。それでも色気のある話などは全く出てこない。まあ、高校一年生にしては随分幼く見える理子からは、そんな話が出てくるとも思えなかったのだが。
そんな理子をからかっている時だった。頬を膨らませた理子の手が僕の脇に伸びた。
「うわっ、やめろ!」
その過剰な反応に理子の目が輝いた。しまった、と思った時にはもう遅い。体を預けるようにして飛びついてきた両手が僕の脇をくすぐりだした。
「やめ……やめて……わーははは!」
チラリと目に入った理子の目が、ネズミを見つけた猫のように嬉々とした光を宿している。
(や、やばい!)
僕は自他ともに認める超くすぐったがり屋だった。これを食らうと即座に戦闘不能のデク人間に早変わりしてしまう。
「お願い! やめて」
広い待合室は僕の絶叫に満たされた。そのさまを見て、理子の攻撃はさらに激しさを増した。
(死ぬ……マジで死ぬ)
何度も意識を失いそうになるほどの苦しみ。笑い死にというものがあるのなら、その死に方だけは避けたいと心底思う。