夏の日の終わりに
(立たなきゃ)
 
 正直、警察など呼ばれては面倒になる。ウチの学校では当然、バイクの免許取得、運転は禁止されているからだ。

 僕はただでさえ教師たちに印象が悪い。バレたら退学すらあり得るだろう。

 両手を踏ん張り、膝を立て、いつものように立ち上がるという行動をすればいいだけだ。そのイメージ通りの動きを体に命令した。


「ん……んん……?」


(おい……)

 全く言うことを聞かない下半身は妙な違和感をともない、太い鎖に巻きつかれたかのように重く、動かない。

(なんだよ……おい!)

 まだ抜けきらないショックで体に力が入らないだけかと思っていた。

 もがく俺に駆け寄ってきた男が膝を折って覗き込んでくる。どうやらさっきのワゴン車のドライバーとは違うようだ。年が若すぎる。

「無理無理、足折れてるよ、完全に。救急車呼ぶから動かないで」

(救急車? 冗談だろ。大げさに騒がないでくれよ。しっかりしろよ、おい!)

 自由の利かない足が腹立たしい。恨めしげにその言うことを聞かない足に目を落とすと──


(冗談……だろ?)

 文字通り我が目を疑った。


 ブロック塀を背にするかたちで座っていた僕の足は、膝を曲げたままつま先を上に向けている。更に太腿はS字に折れ曲がり、関節を無視した肉の塊と化していた。


(折れた!)

 両脚とも同じ様相を呈している。つい今朝まで歩き、友人とはしゃいで走り、階段を駆け下りていた僕の足は、今は見る影も無い。

 このとき初めて絶望感が頭を支配した。何度となくバイクでの転倒は経験していたのだが、折れたのは初めての経験だ。

(明日の学校……どうしよう?)


 先ほどまでいた学校での記憶が頭をよぎる──


「おい、ちょっと職員室まで来い」

 帰りのホームルームが終わり、途端に騒がしくなる教室を出ようと後ろのドアへ向かう僕を、担任の教師は引きとめた。

 僕は聞こえるように舌打ちをすると、面倒くさそうに足を止める。

 また呼び出しだ。

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