夏の日の終わりに
 職員室ではいつもの説教。問題は僕の欠席や遅刻、早退による単位の不足だった。

「お前な、また単位足りんようになるぞ。来ても相変わらず居眠りばっかりみたいだな」

 別につっぱってるとかグレてるとかじゃない。単に朝の電車が嫌なのだ。

「冬休みの補習じゃ追いつかんぞ」

 まあ、反抗くらいはする。その最たるものはバイクによる反社会的行為だろう。

「今から将来のことを考えんと社会に出てから……」

(そりゃアンタの頭の中の社会だろ?)


 常識ってなんだろう?

 僕は話を打ち切るように頭を下げた。堅物の社会常識をくどくど言われるのに我慢がならない。それにいま僕は急いでいたのだ。

「すいませんでした。明日からは真面目に来ますから」

 言い訳ばかりして納得しようとしない僕が、すんなり頭を下げたことが意外なのだろう。担任は次の言葉を思わず飲み込み、周りの教師もちょっとした驚きの顔を向けた。


「ああ、分かったんなら……いい」

「じゃあ失礼します」

 再び頭を下げて職員室を後にする。納得したわけでもなければ、自分の中では教師との約束を守る気もさらさらない。

(つまんねえんだよ、お前らは)

 傾きかけた太陽に焦りを感じて、はやる心を持て余しながら慌ててバイクに飛び乗った。



 やがて救急車がけたたましいサイレンを鳴らしながらやってくる。それは絵空事のように目に映った。
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