夏の日の終わりに
決断
その日は梅雨時だと言うのに、青い空が広がっていた。病室に差し込む強い光が、もうすぐ夏が訪れることを告げているようだ。
「そんな顔すんなよ。どうせ毎日リハビリに通わなきゃいけないんだし、毎日会えるのは変わりないだろ」
「うん」
「なあ、元気だして」
「うん」
さっきから同じやりとりが繰り返されている。しかしその努力もむなしく、理子の目からはいつこぼれてもおかしくない涙が震えていた。
(まいったな……)
退院するまでに挨拶しておきたい人がいる。理子の気持ちは重々分かるのだが、もう時間が差し迫っているのだ。
そう。僕は間もなく退院する。
僕らのやりとりを同室の住人らがハラハラしながら見守っている。下手な恋愛ドラマのワンシーンのようでそれも恥ずかしくて仕方ない。
そんな時、病室に父親と母親が顔を見せた。
「あ、親が来た。ちょっとごめんな」
そう断って理子を外に促すと、荷物の整理を両親に頼む。そして「ちょっと挨拶してくる」と言って中央病棟に足を向けた。
雑多な外来患者でごった返す中央病棟一階。
そこで僕はある人物を探す。さんざん聞きまわったあげく、僕は診察室の前で少し待っていた。
ドアが開くと懐かしく思える顔がそこにあった。
「今日退院?」
そう言った林医師は、少し感慨深げに僕を上から下まで見渡す。
「先生のおかげです」
「いやあ、僕は正直ここまでになるとは思ってなかったからね。君の努力と……」
もう一度視線を落として僕の膝を眺めた。
「運……いや、奇跡と言ったほうがいいかな」
「奇跡って言うほどのものですか?」
林医師はついとメガネを直すと、僕の目を見てこう言った。
「怪我だけじゃないよ。むしろあの時点で生きていた事のほうが奇跡だろう」
「そんなに……」
「酷かったんだ。普通の状態じゃなかった」
「そんな顔すんなよ。どうせ毎日リハビリに通わなきゃいけないんだし、毎日会えるのは変わりないだろ」
「うん」
「なあ、元気だして」
「うん」
さっきから同じやりとりが繰り返されている。しかしその努力もむなしく、理子の目からはいつこぼれてもおかしくない涙が震えていた。
(まいったな……)
退院するまでに挨拶しておきたい人がいる。理子の気持ちは重々分かるのだが、もう時間が差し迫っているのだ。
そう。僕は間もなく退院する。
僕らのやりとりを同室の住人らがハラハラしながら見守っている。下手な恋愛ドラマのワンシーンのようでそれも恥ずかしくて仕方ない。
そんな時、病室に父親と母親が顔を見せた。
「あ、親が来た。ちょっとごめんな」
そう断って理子を外に促すと、荷物の整理を両親に頼む。そして「ちょっと挨拶してくる」と言って中央病棟に足を向けた。
雑多な外来患者でごった返す中央病棟一階。
そこで僕はある人物を探す。さんざん聞きまわったあげく、僕は診察室の前で少し待っていた。
ドアが開くと懐かしく思える顔がそこにあった。
「今日退院?」
そう言った林医師は、少し感慨深げに僕を上から下まで見渡す。
「先生のおかげです」
「いやあ、僕は正直ここまでになるとは思ってなかったからね。君の努力と……」
もう一度視線を落として僕の膝を眺めた。
「運……いや、奇跡と言ったほうがいいかな」
「奇跡って言うほどのものですか?」
林医師はついとメガネを直すと、僕の目を見てこう言った。
「怪我だけじゃないよ。むしろあの時点で生きていた事のほうが奇跡だろう」
「そんなに……」
「酷かったんだ。普通の状態じゃなかった」