夏の日の終わりに
「いでででで! おっさん、マジ痛いって、ちょ……」

「ふふん、どうよこの機械。新しく作った自信作だぞ」

 そのリハビリが天国かと言うとむしろその逆だ。その苦しみは言語に尽くしがたいものがあった。

 いま僕の脚を絞り上げている盲目の禿げた坊さんのようなおっさんが担当なのだが、恐らくはかなりのサディストなのだろう。いつも笑いを絶やさず苦痛を与えてくれる。

 今日もまた新たに樹脂と金属を組み合わせたロボットの骨組みのような器具を作り上げ、僕をその実験台に使っていた。

「おっさん、目が見えねえのにどうやってこんなもん作ったんだ!」

「わしくらいになるとな、見えなくてもちゃーんと分かるのよ」

 このおっさんはとても大学病院に勤める理学療法士とは思えないほど口が悪い。言葉だけ聞いていると、どっかの職人のようだ。それにつられて僕も自然と荒い言葉を吐いてしまう。

 いや、そうならざるを得ないほどの苦痛なのだ。これだけ痛めつけられればそりゃあケンカ腰にもなる。

「効くだろ?」

「……んん!」

「まだ鳴きが足らんなあ。ほれほれ」

 必死に耐えていると、もう限界と思われるところまで曲がっている脚を、さらに押し込んできた。

「ぐああああ!」

 どうしても苦痛に喘ぐ声を聞かないと満足しないのだ。

(いつか殺す!)

 ほとんど殺意にも似た感情が芽生えてくるのも仕方ないことだ。


 そのリハビリが終わると、ボロボロになった脚を引きずって理子のいる病棟へ向かう。それがいまや日課となっていた。
< 68 / 156 >

この作品をシェア

pagetop