夏の日の終わりに
──平凡な人生は送りたくない。

 そんな未来を望む声は、いつからか聞こえなくなっている。踏み出す足が選ぶのは二つに一つ。その状況で僕が選ぶ答えは決まっていた。

「理子、大丈夫。頑張って切らずに治そうよ」

 この場合、これが僕にとって前向きに生きるということだった。しかし、理子は僕に反対の言葉を求めていたようだ。

「でもね、このままずっと注射の治療も続くんだよ。あたし……もう耐えられない。すごく苦しいの!」

 理子の目からこぼれた涙が、その辛さを物語っている。その涙を止めてやるには励まししかない。少なくともこの時の僕はそう考えていた。

「理子。大丈夫、俺がついてる。絶対治るって信じて。きっと治る」

「治るかな?」

「治るよ、絶対」

 理子を抱きしめるしかなかった。胸に暖かい涙が染み込み、そして冷たくなってゆくのがひどく物悲しく思えた。



──絶対治る。



 何を根拠に僕はそんな台詞を吐いたのだろう。若さとか浅はかさだけでは片付けられない愚かな台詞を──


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