夏の日の終わりに
もちろん返事を返す余裕などない。不器用に脚を上げ、Tシャツを通らない頭に焦りはピークに達した。
部屋のドアノブが回ると、軽い金属音を立ててドアが開く。
「ただいま……」
顔を覗かせたおばちゃんの顔はどこかいぶかしげだった。
「おかえりなさい」
二人声を揃えて返事をすると、荒い息を隠すように肺に力を込める。心臓は喉から飛び出しそうなほど鼓動を早め、背中にはたらりと一筋の汗が伝った。
(間に合った……)
つとめて平静を装う僕らを眺めたおばちゃんは、突如吹きだして笑い声を上げた。いや、正確には一瞬吹きだした笑いを噛み殺していた。
「お昼まだなんでしょ、そうめんで良い?」
「はい、何でモ!」
僕の返事をする声が裏返ったのをきっかけに、今度は口を押さえて肩を震わせている。僕は何がなにやら分からず、愛想笑いを返すしかなかった。
「脩君、シャツ……う、裏返しになってる……」
そこまでが限界だったのだろう。おばちゃんは誰にはばかることもなく声を上げて笑った。
「え、あ……何でだろう?」
僕は相当複雑な表情で笑い、そして慌ててシャツを脱いだ。視界の端に見えた理子のつま先が、落ちたブラジャーをベッドの下に押し込んでいた。
(超やべえよ……)
おばちゃんはまだ笑いながら階段を下りて行く。大きく息を吐きながらベッドに腰を下ろすと、足元の布団に気がついた。
僕のために敷いてくれていた布団は、一糸乱れぬままそこにある。
(ホントやべえ)
今さら無駄だろうが、僕は足でその布団を少し乱しておいた。
その日のそうめんは、どれだけつゆに漬けても味がしなかった。
部屋のドアノブが回ると、軽い金属音を立ててドアが開く。
「ただいま……」
顔を覗かせたおばちゃんの顔はどこかいぶかしげだった。
「おかえりなさい」
二人声を揃えて返事をすると、荒い息を隠すように肺に力を込める。心臓は喉から飛び出しそうなほど鼓動を早め、背中にはたらりと一筋の汗が伝った。
(間に合った……)
つとめて平静を装う僕らを眺めたおばちゃんは、突如吹きだして笑い声を上げた。いや、正確には一瞬吹きだした笑いを噛み殺していた。
「お昼まだなんでしょ、そうめんで良い?」
「はい、何でモ!」
僕の返事をする声が裏返ったのをきっかけに、今度は口を押さえて肩を震わせている。僕は何がなにやら分からず、愛想笑いを返すしかなかった。
「脩君、シャツ……う、裏返しになってる……」
そこまでが限界だったのだろう。おばちゃんは誰にはばかることもなく声を上げて笑った。
「え、あ……何でだろう?」
僕は相当複雑な表情で笑い、そして慌ててシャツを脱いだ。視界の端に見えた理子のつま先が、落ちたブラジャーをベッドの下に押し込んでいた。
(超やべえよ……)
おばちゃんはまだ笑いながら階段を下りて行く。大きく息を吐きながらベッドに腰を下ろすと、足元の布団に気がついた。
僕のために敷いてくれていた布団は、一糸乱れぬままそこにある。
(ホントやべえ)
今さら無駄だろうが、僕は足でその布団を少し乱しておいた。
その日のそうめんは、どれだけつゆに漬けても味がしなかった。