夏の日の終わりに
 理子は病院からの解放、そして僕は学校からの解放で浮かれる夏休み。今までの時間を取り戻そうとするかのように僕らはデートを重ねた。

 二人並んで松葉杖で街中を歩き回り、水族館を巡り動物園では猿に餌をやった。

 夏の肌を焼くような日差しがむしろ心地よかった。

「ほら脩君、おいしいから」

「いいって、自分で食べるから」

「ダメ、ほらあーんしてよ」

 ソフトクリームを手にした理子と僕はベンチの上で押し問答をしている。彼女にソフトクリームを食べさせてもらうなど、人目があるのに恥ずかしくてしかたない。

 顔を背ける僕を、理子に握られたソフトクリームがしつこく追った。

「もう、いいって言ってる──」

 文句を言おうとして振り向いた僕の顔に冷たい感触が広がると、理子は一瞬目を丸くしたが、次の瞬間には大口を開いて笑い転げていた。

「サンタ、サンタだ!」

「お前……!」

「やめて……その顔で怒るのはやめて……」

 ケタケタと笑う理子にはかなわない。僕だって本気で怒っているわけじゃない。その後アイスを取り上げると、溶けてしたたるコーンを握って反撃した。

 その二人の奇声に道行く人々が呆れた視線を送った。どこからどう見ても立派なバカップルだ。



 そんな日々を送る僕の元にまたしても電話が入る。今度は理子じゃない。森君からの誘いだった。

「ウチの近くで花火大会があるんだけど、皆で見に行かない?」

「おお、良いねえ!」

「ついでに泊まっていけば良いよ」

「おお、行く行く!」

 詳しい話を森君から聞いて電話を切ると、その瞬間またベルが鳴った。言い忘れたことでもあるのかと受話器を取る。

「あのね、森君がね……!」

 理子からだ。

(あいつめ……)

 どうやら僕より先に理子のほうへ連絡したようだ。
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