夏の日の終わりに
 細長いホームがポツリとたたずむ小さな駅。そこに降りた僕らを呼ぶ声がする。ホームの外を見下ろした先には、迎えに来ていた森君とその父親の姿があった。

 車でほんの二、三分の距離に森家はあった。古い住宅街に紛れて特徴のない一軒家だ。

 僕らを迎えたのは先に来ていた妙子さんだった。

「ちょっと、遅いじゃないの。しかもラブラブで」

「そんなことないよ」

 考えてみれば妙子さんの家も僕らと同じ方向だ。声を掛けられなかったことに多少の嫌味を加えたのだろう。

 別にそんなつもりじゃなかったが、確かに妙子さんのことは頭になかった。



 縁側に開けた窓から見える景色が薄紫に変わり始めると、家の周囲がにわかにざわめきだす。時折下駄の軽やかな音と若い女の子の話し声、そして小さな子供のはしゃぐ声が通り過ぎる。

「そろそろ行こうか」

 なかなか勝敗のつかないトランプゲームを中断し、森君が重い腰を上げた。

「うん、行こう!」

 さっきから理子はうずうずしていたようだ。ゲームに集中しているようには見えなかった。

 外に出た僕らは二列になり、海岸を目指して歩く。田舎の花火大会とは言えなかなかの規模らしく、市内からの見物客も多い。

 前を歩く理子と森君は僕の知らないアニメの話で盛り上がっているようだ。並んで歩く妙子さんは、それを見ながら隣の僕に意味深な笑いを浮かべた。

「え、なに。その笑い」

 いぶかしく思った僕に向かって、妙子さんは急に声を潜めて言う。

「理子とどうなの?」

「え? どうって……別に」

「ウソお、どう見たってラブラブじゃん」

「なんでよ。そんなんじゃないって」

 僕はこういった話を自分に振られるのが嫌いだ。恋愛話を友人にすることなど皆無と言っていい。

「ふーん。じゃあ森君にそう言っとこうかな」

「森君? なんで」

「あら、知らないの? 森君が理子のこと好きってこと」
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