夏の日の終わりに
 何となく察しはついていた。それでも特に動揺することもなく、ただ「へえー」とだけ返した。

(すまん森君。理子は俺のものなんだ)

 懸命に話を盛り上げている森君を見て、少しだけ罪悪感を感じていた。


 砂浜には所狭しと露店が並び、発電機の音と人々の喧騒に包まれている。その中をトロトロと歩く僕らは何人もの人に追い抜かれ、時には杖に足を引っ掛けそうになった人からあからさまに迷惑そうな顔を向けられた。

「あたしたちって、周りから見たら変だろうね」

 苦笑気味に僕らを見渡した妙子さんはそう言った。

 見える限りの人々は、誰もこんな不自由をわずらってはいないようだ。何の障害もなく歩き、走り、飛び跳ねる。

 たったそれだけのことが羨ましく思える、そんなことすら出来ない僕らはいびつな集団なのだろうか。

「別に、同じ人間だよ」

 僕は少し憮然としてそう言ったが、同じじゃない。いや、同じじゃないと一番思ってるのはたぶん僕だろう。それは周囲が僕を特別視することよりも、僕が自分を特別視することのほうがより強かった。

 そう、単に不幸のヒロイズムに浸っていただけだ。

(理子はどうなんだ?)

 悲壮感をいつも身にまとっている僕に比べ、理子はそんなところを微塵も見せない。今もクリクリとした目で露店に並べられた商品を興味深そうに眺めている。

(天性の明るさだな……)

 言い換えればそれは「強い」ということだ。勿論その時の僕がそんなこと分かるわけがない。

 逆の言い方をすれば、僕が「弱い」ということも──
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