夏の日の終わりに
闘病編

僕の恋人

 祖父の容態は一進一退を繰り返しているように見えるが、それでも僕の回復を信じる気持ちに変わりはない。

 一方の理子には、もはや以前の姿と何ら変わるところは見られない。相変わらず廊下を突っ走っては他の患者や看護師を慌てさせている。そんな理子を見ていると、何度か気持ちを暗くさせた不安すら遠のいていった。

 外はもう木枯らし混じりの強い風が吹いている。木々の葉は赤く色づき、街の景色も少し寂しげに見えた。

 そんな街へ僕と理子は飛び出して行く。

 寿司屋やファミレス、ショッピングモールに喫茶店。近くで遊べる場所のありとあらゆるところに僕らは出没した。

 今日はすぐ近くにある大きな公園へ足を向け、そこを巡る周回道を歩いている。車椅子に乗る理子と松葉杖の僕だが、そこは病院の近くということもあって、そんな姿は珍しくない。

 気兼ねなく散歩を楽しめるこの道を、僕も理子も気に入っていた。



 そのとき、前方から学生服を着たカップルが歩いてくるのが見えた。気にも留めずすれ違おうとしたが、その学生は僕の名を呼んで引き止めた。

「脩じゃねえの?」

 こんなところで名前を呼ばれるとは思ってなかった僕は、驚いて声の主を振り返る。その男は同じ学校のかつての同級生だ。とは言え、親しい関係じゃない。呼び捨てにされる覚えもなかった。

「こんなところでなにしてんだ?」

 随分となれなれしく話しかけてくるが、それ自体不自然に思えて嫌な感情が湧いた。

「あれ、彼女?」

 そう言いながら覗き込むように理子を見つめる。僕は早くこの場から離れたくて話を打ち切りたい。

「そんなんじゃねえよ」

 イラっとした感情が頭をよぎる。

「ふーん、入院してたときの友達か何か?」

「まあな」

 それで話は終わりだ。さっさと立ち去ろうときびすを返した。

「そうそう、これ俺の彼女」

 最初から分かっている。こいつが彼女を自慢したくて声を掛けてきたことくらいは。

「あ、そう」

 僕がこんな態度のときに話しかけてくるとは命知らずな奴だ。元気ならタダじゃ済まないところだ。
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