夏の日の終わりに

宣告

　あれから４時間ほどが経ったころ、僕は近くの整形外科のベッドに横たわっていた。


　モルヒネで痛みを抑えていったんは眠りについたのだが、またぶり返してきた痛みで目が覚めた。

　運ばれてくる途中、麻痺していた神経が感覚を取り戻すと強烈な痛みに襲われ、世の中にこんな痛みがあるのかと思い知ることになった。

　痛みにもがくとはこの事だ。

　歯の神経に針を突きたてられているような感覚が足に突き刺さる。奥歯はギリギリと鳴き、握ったこぶしがぶるぶると震えて額に脂汗が滲む。

　苦痛に声が漏れるなか、医師や看護師はその痛みを無視するかのように素早く処置を施してゆく。その行為は一見無慈悲に見えたが、処置を終えた医師は、一分一秒でも早く処置をする必要があったと告げた。


　そんなことがあったなあ、と思えるほど今は現実感がない。


　そんな中、病室の外だ。廊下で母親の声がするのに気づいた。話している相手は医師のようだが、母親のトーンが大きくなると耳を澄ます必要もなくなった。

「どういうことなんですか？」

「ですから……」

　言いにくいのだろうか、医師はいったん言葉を区切って続けた。

「息子さんの足は治りません。一生車椅子の生活になるでしょう」

　母親はしばらく沈黙すると、答える変わりに泣き声を発した。


　人はそんな宣告をされたとき、どう思うのだろうか？



（そんなことあるわけないだろ）


　それがいつわらざる僕の心情だ。

　単に信じられないというより、根拠のない治るという自信はあった。

　それなのに泣き声をあげる母親に、半分呆れ、半分同情の念が湧く。
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